MMOギルドはなぜ職場になるのか
遊びの仕事化と、ネトゲ共同体を読み解く社会学50項目
MMOのギルドは、ただのゲーム内グループではない。
人が集まる。
目的ができる。
報酬が生まれる。
経験差ができる。
リーダーが現れる。
古参が生まれる。
週課や定例コンテンツが反復される。
すると、そこには小さな社会ができる。
最初は、ただの遊び場だったはずなのに、いつの間にか、集合時間、役割、効率、暗黙のルール、序列、排除、支援、居場所が生まれる。
これは単なる「ネトゲあるある」ではない。
MMOギルドは、人間が集まり、目的を持ち、報酬に引っ張られ、経験差を抱えたまま反復行動を続けると、どのような社会が生まれるのかを観察できる、小さな箱庭である。
だから面白い。
そして、ときどき怖い。
1. 遊び場だったはずのギルドが、処理組織になる
MMOを始めたばかりのころ、ギルドは居場所のように見える。
ログインすれば誰かがいる。
分からないことを聞ける。
ちょっとした雑談がある。
誰かが狩りに誘ってくれる。
失敗しても笑える。
「また迷子かよ」と言われながら、なんとなくその場にいられる。
そこには、職場でも学校でも家庭でもない、もうひとつの場所がある。
しかし、ある段階からギルドは変わり始める。
高難度コンテンツがある。
週課がある。
報酬がある。
参加人数が必要である。
失敗すると時間が延びる。
慣れた人と慣れていない人で差が出る。
すると、ギルド活動はだんだん「処理」になる。
集合。
準備。
移動。
討伐。
報酬回収。
次の場所へ移動。
解散。
これはもう、かなり仕事に近い。
本人たちは遊んでいるつもりである。
実際、ゲーム内の活動なのだから遊びである。
しかし、構造としては業務に似てくる。
出勤時間がある。
担当がある。
流れがある。
成果がある。
ミスがある。
遅れる人がいる。
進行役がいる。
雰囲気を壊さないことが求められる。
遊びの顔をした業務。
これがMMOギルドの仕事化である。
2. World of Warcraft研究が示した「遊びの仕事化」
この現象は、特定のゲームだけの話ではない。
World of Warcraft Classicのギルドを扱った研究では、友人同士のゆるい集まりだったギルドが、やがて階層と役割を持つ組織へ変わっていく過程が論じられている。
最初は、仲間同士の集まりだった。
ところが、コンテンツを安定して攻略し、報酬を得て、ギルドを維持していくために、だんだん組織化されていく。
役割ができる。
ルールができる。
階層ができる。
管理が生まれる。
行動規範が作られる。
パフォーマンスが見られる。
ゲーム内活動が、仕事のようなタスクになる。
これが「遊びの仕事化」である。
面白いのは、これは悪人が作るわけではないということだ。
誰かが「このギルドを職場にしてやろう」と考えているわけではない。
むしろ、みんなが普通に遊び、普通に報酬を取り、普通に効率化し、普通に毎週同じことをしているうちに、自然とそうなる。
人間集団は、目的と反復と報酬を持つと、かなり簡単に組織化される。
そして、組織化された遊びは、ときどき職場に似てしまう。
3. 秘密基地から兵舎へ
MMOギルド研究には、非常に印象的な表現がある。
From Tree House to Barracks
つまり、「木の上の秘密基地から兵舎へ」である。
これは、MMOギルドの変化を非常によく表している。
秘密基地としてのギルドには、雑談がある。
冗談がある。
寄り道がある。
失敗しても笑える。
何もしなくても、そこにいていい。
一方、兵舎としてのギルドには、集合がある。
役割がある。
指示がある。
進行がある。
規律がある。
ミスをしないことが求められる。
もちろん、兵舎型ギルドが悪いわけではない。
高難度コンテンツや大規模戦を本気でやるなら、組織性は必要になる。
何十人も集まるコンテンツを、完全に自由な雑談だけで回すのは難しい。
問題は、自分が求めているものと、ギルドの型が合っているかである。
居場所がほしい人にとって、兵舎型ギルドはつらい。
効率よく報酬を取りたい人にとって、秘密基地型ギルドは物足りない。
同じMMOでも、ギルドの型が違えば、まったく別の社会になる。
4. 第三の場所だったはずなのに
社会学には「第三の場所」という考え方がある。
第一の場所は家庭。
第二の場所は職場や学校。
第三の場所は、そのどちらでもない、気軽に人と会える場所である。
喫茶店。
酒場。
床屋。
商店街のたまり場。
そういう場所である。
MMOも、第三の場所になりうる。
ログインすれば誰かがいる。
目的がなくても話せる。
少しだけ遊んで落ちてもいい。
そこにいること自体に意味がある。
これがネトゲの強さである。
スタンドアロンのゲームには、基本的にこの感覚はない。
もちろん、スタンドアロンゲームにも物語はある。
世界観もある。
完成された美しさもある。
しかし、そこには他者が作る社会がない。
MMOには他者がいる。
だから、ゲーム内にもうひとつの生活圏ができる。
しかし、ギルドがルーチン化すると、この第三の場所性が消えていく。
そこは、ふらっと立ち寄る場所ではなくなる。
時間通りに来る場所になる。
雑談する場所ではなく、指示を聞く場所になる。
居場所ではなく、週課処理場になる。
人はいる。
報酬もある。
ギルドは機能している。
でも、居場所ではない。
ここが怖い。
5. ギルドは実践共同体である
ギルドは、実践共同体である。
同じ実践を共有する人たちの共同体。
狩り。
レイド。
ダンジョン攻略。
装備更新。
PvP。
大規模戦。
週課消化。
ギルドイベント。
そこには、単なる知識ではなく、実際に一緒に動くことで共有される作法がある。
どこに集合するか。
どの順番で進めるか。
誰が指示を出すか。
どの合図で動くか。
失敗したらどう立て直すか。
どこまで冗談を言っていいか。
どの程度の遅れなら許されるか。
こうした実践の積み重ねによって、ギルドはひとつの共同体になる。
ただし、実践共同体には本来、初心者が入るための入口が必要である。
見学する。
簡単な役をもらう。
経験者についていく。
失敗して覚える。
少しずつ中心へ近づく。
この入口があるギルドは、学習共同体として機能する。
しかし、上級者だけで高速にコンテンツを処理するギルドでは、この入口が消えやすい。
見学する余地がない。
質問する間がない。
簡単な役がない。
失敗して覚える余白がない。
その結果、新人は参加者ではなく、「流れを止める人」になってしまう。
これは非常にきつい。
6. 知っていることと、できることは違う
MMOの集団活動では、しばしば「知らない」と「できない」が混同される。
たとえば、ある操作やギミックがある。
手順は分かっている。
このタイミングで動く。
この場所へ行く。
この表示が出たら操作する。
この攻撃は避ける。
この敵を先に倒す。
しかし、実際には難しい。
表示が一瞬しか出ない。
キャラクターの向きがずれる。
敵の攻撃が重なる。
味方のエフェクトで見えにくい。
焦る。
ラグがある。
判断が遅れる。
手順は知っているのに、身体が追いつかない。
この場合、問題は「知らないこと」ではない。
知っている。
でも、できない。
つまり、知識の問題ではなく、身体化された技能の問題である。
ところが上級者は、自分が自然にできるため、その困難が見えなくなる。
そして言ってしまう。
そろそろ覚えよう。
これはアドバイスに見える。
しかし、言われた側にはこう響く。
まだ覚えていないのか。
何回やっているんだ。
みんなできているのに。
あなたのせいで遅れている。
本当に必要なのは、こういう言葉である。
そこ、難しいよね。
あとでコツを教えるよ。
次は少し待つよ。
焦ると失敗しやすいから、ここで一度落ち着こう。
これなら支援になる。
でも、「覚えよう」は支援ではない。
問題を本人の努力不足に置いている。
ここに、ギルドの文化が出る。
7. ギルドの本性は、失敗時の一言に出る
ギルド文化は、勝っているときには見えにくい。
勝っているときは、だいたいみんな機嫌がいい。
報酬が出れば、空気もよくなる。
問題は、誰かが失敗したときである。
そのときに、何と言うか。
大丈夫。
そこ難しいよね。
初見なら仕方ない。
あとで練習しよう。
次いこう。
こう言えるギルドは、学習共同体として機能している。
一方で、
そろそろ覚えよう。
何回もやってるよね。
普通はできるよ。
ちゃんとして。
こうなると、かなり職場である。
それも、あまりよくない職場である。
ゲームなのに、ブラック企業の上司みたいな言葉が出る。
これが嫌なのは当然である。
なぜなら、その一言で分かってしまうからだ。
このギルドでは、できない人は支援対象ではない。
本人の覚え不足として処理される。
これは、見るだけでも萎える。
自分が言われたわけではなくても萎える。
次に自分がミスしたときも、同じ扱いをされると分かるからである。
8. MMOギルドを読み解く社会学50項目
ここからは、MMOギルドを読み解くための社会学的視点を50項目に整理する。
直接当たるものもある。
少しかすっているものもある。
しかし、どれもMMOギルドという小さな社会を見るためのレンズになる。
1. 実践共同体
ギルドは、同じ実践を共有する人たちの共同体である。
狩り、レイド、ダンジョン攻略、装備更新、PvP、大規模戦、週課消化、ギルドイベント。
そこには、ただの情報交換ではなく、実際に一緒に動くことで作られる作法がある。
どこに集合するか。
誰が進行するか。
どの順番で進めるか。
失敗したらどうするか。
こうした実践を共有することで、ギルドはひとつの共同体になる。
2. 正統的周辺参加
新人は、いきなり中心的な役割を担うのではなく、周辺から少しずつ参加していく。
見学する。
簡単な役をもらう。
経験者についていく。
失敗しながら覚える。
少しずつ中心に近づく。
初心者に優しいギルドには、この入口がある。
逆に、上級者だけで高速に回るギルドでは、この入口が消えやすい。
その結果、新人は参加者ではなく、流れを止める存在になってしまう。
3. 状況的学習
MMOの知識は、攻略記事や動画だけでは身につかない。
実際の場の中で覚える必要がある。
味方の動き。
ボスの挙動。
チャットの指示。
移動のタイミング。
失敗したときの立て直し方。
こうした知識は、現場の中で身につく。
MMOの学習は、かなり状況的である。
4. 暗黙知
ギルドには、明文化されていない知識がたくさんある。
集合場所。
移動の順番。
準備の作法。
VCやチャットでの合図。
誰が進行役なのか。
どこまで冗談を言ってよいのか。
これらは公式マニュアルには書かれていない。
しかし、その場に参加するには必要である。
初心者が戸惑うのは、ゲームシステムだけでなく、この暗黙知が見えないからである。
5. 第三の場所
MMOは、家庭でも職場でも学校でもない、もうひとつの居場所になりうる。
ログインすれば誰かがいる。
雑談できる。
目的がなくてもそこにいられる。
こうした場所は、第三の場所として機能する。
しかし、ギルドが週課処理や高効率攻略に偏ると、この第三の場所性が弱くなる。
居場所だったギルドが、処理場へ変わっていく。
6. 秘密基地から兵舎へ
MMOギルドは、秘密基地にも兵舎にもなる。
秘密基地としてのギルドには、雑談、冗談、寄り道、失敗を笑える空気がある。
兵舎としてのギルドには、集合、役割、指示、進行、規律がある。
どちらが悪いという話ではない。
問題は、自分が求めているものとギルドの型が合っているかどうかである。
7. 遊びの仕事化
MMOでは、遊びが仕事のようになることがある。
集合時間がある。
出欠がある。
担当がある。
予習がある。
反省がある。
報酬がある。
成果がある。
ミスが評価される。
これらがそろうと、ゲーム内活動はかなり仕事に近づく。
8. Playbour
Playbourとは、playとlabourを合わせた言葉である。
遊びと労働の境界が溶けることを指す。
MMOでは、遊んでいるはずなのに、作業、管理、成果、効率、義務感が生まれる。
ログインが出勤のようになる。
レイドが業務のようになる。
素材集めが労働のようになる。
週課消化がタスク処理のようになる。
9. 合理化
ギルド活動は、効率化されやすい。
どの順番で回るか。
どの構成が速いか。
どの役割が必要か。
何分で終わるか。
報酬効率はいくらか。
合理化は便利である。
しかし、進みすぎると、楽しさ、雑談、寄り道、初心者対応が邪魔になる。
遊びの余白が削られる。
10. 官僚制
ギルドは小さな官僚制になることがある。
リーダーがいる。
サブリーダーがいる。
進行役がいる。
募集担当がいる。
火力役、回復役、防御役、支援役が分かれる。
ルールが作られる。
官僚制は、複雑な集団活動を安定させる。
しかし同時に、人を役割として見るようになる。
人間が、機能として扱われやすくなる。
11. 目的の転移
本来、ギルド活動は遊ぶためにある。
しかし、いつの間にか目的が変わる。
本来は、みんなで遊ぶために週課をやる。
ところが、週課を終わらせるために人が集まるようになる。
本来は、人のために手順がある。
ところが、手順のために人が動くようになる。
これが目的の転移である。
12. 寡頭制の鉄則
組織ができると、少数の中核メンバーに力が集まりやすい。
ギルドでも同じである。
強い人。
古参。
毎週参加する人。
進行できる人。
リーダーと近い人。
知識がある人。
こうした人たちが、自然にギルドの中心になる。
そして、その中心メンバーのテンポでギルドが動く。
13. マクドナルド化
マクドナルド化とは、効率性、計算可能性、予測可能性、管理が社会のさまざまな場面に広がることを指す。
MMOギルドにも当てはまる。
効率性。
短時間でコンテンツを終わらせる。
計算可能性。
報酬、時給、討伐数、週課数で価値を測る。
予測可能性。
毎週同じ曜日、同じ時間、同じ流れで進める。
管理。
役割、装備、スキル、移動、発言をそろえる。
これは強い。
しかし同時に、遊びの余白が消えていく。
14. 文化資本
MMOでは、装備やレベルだけが資本ではない。
その場で価値を持つ知識や作法がある。
ギミック知識。
職業ごとの立ち回り。
専門用語。
レイドの流れ。
ギルド内の暗黙のルール。
募集文の読み方。
VCでの発言作法。
これは文化資本である。
装備が強くても、文化資本がなければ場に入れない。
15. 社会関係資本
MMOでは、人とのつながりも資本である。
誰が誘ってくれるか。
誰が教えてくれるか。
誰が失敗をフォローしてくれるか。
誰が「この人は初見だから」と場に橋をかけてくれるか。
こうしたつながりがあると、初心者でも参加しやすい。
逆に、つながりがないと、同じギルドにいても孤立する。
16. 象徴資本
ギルドには、威信がある。
強い人。
古参。
有名なプレイヤー。
レイドを仕切れる人。
大規模戦で活躍する人。
高難度コンテンツを何度もクリアしている人。
こうした評価は、象徴資本になる。
象徴資本を持つ人の発言は重い。
その人が「普通」と言えば、それがギルドの普通になりやすい。
17. ハビトゥス
上級者は、考えずに動く。
攻撃を避ける。
バフを更新する。
次の場所へ行く。
ギミックを処理する。
味方の動きを読む。
危険なタイミングで距離を取る。
これは、身体化された感覚である。
初心者は、同じ動作をひとつひとつ意識しなければならない。
上級者は無意識でやる。
この差が見えないと、上級者は「なぜできないのか」と思ってしまう。
18. ドクサ
ドクサとは、その場で当たり前とされている前提である。
ギルドにもドクサがある。
このコンテンツは経験者だけで行くもの。
この時間帯は週課を消化するもの。
このボスでは説明はいらない。
このくらいの装備は当然。
このギミックは知っていて当然。
分からない人は事前に調べてくるもの。
誰も明文化していない。
しかし、その前提が場を支配している。
19. 社会的閉鎖
ギルドは、明示的に拒絶しなくても閉じる。
初心者お断りとは言っていない。
でも、実際には入れない。
装備水準が高い。
経験が必要。
専門用語が多い。
進行が速い。
質問しづらい。
失敗しにくい。
これが社会的閉鎖である。
20. ゲートキーピング
誰を参加させるか。
誰を固定PTに入れるか。
誰をレイドに誘うか。
誰に説明するか。
誰を待つか。
誰を外すか。
これらを決める行為がゲートキーピングである。
ギルドリーダーだけが門番ではない。
進行役、古参、固定メンバー、募集担当も門番になりうる。
21. メリトクラシー
できる人が参加する。
強い人が選ばれる。
ギミックを知っている人が呼ばれる。
ミスが少ない人が固定に入る。
これは一見、公平である。
しかし、学習機会がなければ、できない人はいつまでもできない。
経験者だけがさらに経験し、未経験者は未経験のまま残る。
能力主義は、学習機会の格差を見落としやすい。
22. マタイ効果
できる人は、さらに機会を得る。
高難度経験者は、さらに誘われる。
うまい人は、さらに固定に呼ばれる。
強い人は、さらに情報を得る。
有名な人は、さらに発言力を持つ。
一方で、未経験者は誘われない。
誘われないから経験できない。
経験できないから、さらに誘われない。
差が広がっていく。
23. ゴフマンの演技論
ギルドでは、人は役を演じる。
頼れる上級者。
レイドリーダー。
いじられ役。
初心者。
無言の高火力。
世話焼き。
効率重視の人。
雑談担当。
こうした役があると、場に居場所ができる。
ルーチンギルドが怖いのは、初心者が演じられる役がないことである。
24. フェイスワーク
人は、会話の中で面子を守っている。
MMOでも同じである。
失敗した人に、周囲がどう声をかけるか。
「大丈夫」
「そこ難しいよね」
「初見なら仕方ない」
「次いこう」
こうした言葉は、面子を守る。
一方で、
「まだ覚えてないの?」
「普通はできるよ」
「ちゃんとして」
こうした言葉は、面子を傷つける。
ギルド文化は、誰かが失敗したときの一言に出る。
25. 相互行為秩序
ギルドには、その場の会話の秩序がある。
誰が話してよいか。
いつ質問してよいか。
どこまで冗談を言ってよいか。
誰の指示が優先されるか。
ミスしたときに謝るべきか、笑うべきか、黙るべきか。
これが相互行為秩序である。
まったりギルドでは、この秩序が柔らかい。
ルーチンギルドでは、この秩序が硬い。
26. フレーム分析
同じ行動でも、どのフレームで見られるかによって意味が変わる。
初心者がミスをする。
遊びのフレームなら、「初見なら仕方ない」になる。
学習のフレームなら、「次はこうしよう」になる。
業務処理のフレームなら、「流れを止めた」になる。
同じコンテンツでも、ギルドのフレームが違えば、意味が違う。
27. 冗談関係
いじりやからかいは危険である。
行き過ぎれば、いじめになる。
序列確認になる。
弱い人を固定ポジションに閉じ込めることもある。
しかし、うまく機能している冗談関係には、場を和らげる力がある。
失敗がキャラになる。
迷子が笑いになる。
下手な人が、ただの迷惑な人ではなく「いつもの人」として受け入れられる。
そこには人間関係の劇場がある。
28. 弱い紐帯
ギルドでは、強い固定関係だけでなく、弱い関係も重要である。
たまに話す人。
軽く教えてくれる人。
狩場情報をくれる人。
イベントに誘ってくれる人。
雑談で名前を覚えてくれる人。
こうした弱い紐帯が、居場所を作る。
強い固定メンバーだけで閉じると、新人は入れない。
29. 強い紐帯
固定PTや古参同士には、強い紐帯がある。
説明なしで動ける。
信頼がある。
役割分担が早い。
ミスの癖も分かっている。
これは強みである。
しかし、強い紐帯の内側で完結すると、新人は入れなくなる。
強い関係は、内部の効率を高める。
同時に、外部からの参加を難しくする。
30. 構造的空隙
上級者集団と初心者集団の間には、隙間ができる。
その隙間をつなぐ人がいる。
上級者とも話せる。
初心者にも説明できる。
攻略情報を分かりやすく翻訳できる。
場の速度を調整できる。
ミスした人をフォローできる。
こういう人は非常に貴重である。
ギルド内の翻訳者であり、橋渡し役である。
31. コア・ペリフェリー構造
ギルドには中心と周辺ができる。
中心には、毎週参加する人、強い人、古参、進行役がいる。
周辺には、たまに参加する人、初心者、中級者、質問しにくい人がいる。
中心メンバーだけでコンテンツが回るようになると、周辺メンバーは見ているだけになる。
所属はしている。
しかし、参加できない。
これは多くのギルドで起きる。
32. ホモフィリー
人は似た者同士でつながりやすい。
上級者は上級者と組む。
高難度経験者は経験者同士で行く。
VC勢はVC勢で固まる。
効率勢は効率勢で集まる。
まったり勢はまったり勢で集まる。
これは自然である。
同じ速度の人と遊ぶ方が楽だからだ。
しかし、ホモフィリーは閉鎖を生む。
似た者同士が快適に固まるほど、違う速度の人は入りにくくなる。
33. 同調圧力
誰も「急げ」と言っていない。
しかし、みんな急いでいる。
だから、自分も急がなければならない気がする。
これが同調圧力である。
ルーチンギルドでは、言葉よりも速度が圧になる。
移動が速い。
説明がない。
次のコンテンツが始まる。
誰も止まらない。
その場にいるだけで、自分も同じ速度で動かなければならない気がする。
34. 沈黙の規範
会話がないギルドでは、沈黙そのものが規範になる。
必要な指示だけが流れる。
雑談がない。
質問がない。
冗談がない。
この状態では、質問することが重くなる。
「分かりません」と言うだけで、場の沈黙を破ることになる。
誰も怒っていない。
誰も排除していない。
しかし、聞けない。
沈黙は、非常に強い規範になりうる。
35. 集団凝集性
固定メンバーは結束が強い。
一緒に失敗し、一緒に成功し、何度も同じコンテンツを回る。
すると、強い結束が生まれる。
これは良いことである。
しかし、結束が強すぎると、外から来る人には壁になる。
内側では親密。
外側からは入りにくい。
集団凝集性は、内部の安心と外部への閉鎖を同時に生む。
36. 集団浅慮
中核メンバーの間で「これが普通」が固まると、外部の視点が消える。
この速度で進めるのが普通。
このギミックは知っていて普通。
この装備水準が普通。
この時間に来るのが普通。
そうなると、初心者や中級者から見てどう感じるかが見えなくなる。
「初見には無理ではないか」
「説明が必要ではないか」
「この言い方はきつくないか」
こうした視点が消える。
37. 内集団と外集団
同じギルドの中にも、内集団と外集団がある。
分かっている人たち。
まだ分かっていない人たち。
毎週参加する人たち。
たまに見るだけの人たち。
VCにいる人たち。
チャットだけの人たち。
固定に入る人たち。
誘われない人たち。
同じギルドタグをつけていても、社会的には別世界である。
38. ラベリング
人はラベルで扱われる。
初心者。
床ペロ。
迷子。
火力枠。
回復役。
進行役。
ギミックが苦手な人。
よく遅れる人。
ラベルは、キャラにもなる。
しかし、固定化されるとつらい。
一度「できない人」と見られると、次もそう見られる。
ラベルは、ゲーム内の人間関係を形作る。
39. 逸脱
ルーチンギルドでは、分からないこと、遅れること、質問することが逸脱になる。
本来、初心者なら分からないのは当然である。
しかし、場の速度が速すぎると、それが逸脱として見られる。
「まだ知らないの?」
「そこで遅れるの?」
「普通できるよね?」
こうした反応が出ると、初心者は居場所を失う。
40. 正常化
最初は異常だったことも、繰り返されると普通になる。
高難度コンテンツを短時間で消化する。
説明なしで進む。
経験者だけで回す。
初心者が来ない。
質問が出ない。
これが毎週続くと、それが普通になる。
正常化は怖い。
内部者には、その異常さが見えなくなる。
外部者だけが「これは入りにくい」と感じる。
41. 週課儀礼
MMOには週課がある。
毎週同じ時間に集まり、同じコンテンツを回る。
これは儀礼である。
宗教儀礼のように見えなくても、共同体を維持する反復行為である。
毎週集まる。
同じ流れで進む。
同じ報酬を取る。
同じメンバーが顔を出す。
これによって、ギルドは維持される。
しかし、儀礼は空洞化することもある。
楽しいイベントだったものが、ただの処理になる。
42. 集合的沸騰
人が集まり、同じ行為をすると、高揚感が生まれることがある。
大規模戦で勝つ。
レイドを初クリアする。
ギルドイベントで盛り上がる。
全員で強敵を倒す。
これは集合的沸騰である。
MMOの醍醐味のひとつである。
しかし、ルーチン化したギルドでは、この沸騰が起きにくくなる。
集まっている。
同じことをしている。
でも盛り上がらない。
ただ処理している。
沸騰しない儀礼。
これが、ルーチンギルドの寂しさである。
43. 時間規律
遊びのはずなのに、時計に支配される。
何時集合。
何時開始。
何分以内に終了。
週リセットまでに消化。
次の予定がある。
MMOの週課は、プレイヤーの生活時間を組織する。
これは仕事に似ている。
もちろん、時間を決めなければ集団活動はできない。
しかし、時間規律が強くなりすぎると、遊びが勤務のようになる。
44. 境界作業
ギルドは、自分たちを定義する。
うちはまったり。
うちは攻略。
うちは初心者歓迎。
うちは社会人中心。
うちは効率重視。
うちはVC必須。
うちは自由参加。
こうした言葉によって、ギルドの境界が作られる。
誰が入りやすいか。
誰が合わないか。
どんな振る舞いが許されるか。
ギルド募集文は、社会の境界を作る文章である。
45. 感情労働
ギルドを居場所にするには、感情労働が必要である。
初心者に声をかける。
失敗した人を安心させる。
場を和ませる。
険悪な空気を戻す。
上級者と初心者の間をつなぐ。
言い方を柔らかくする。
これは目立たない仕事である。
しかし、これがないとギルドは冷たくなる。
強いギルドと、居心地のよいギルドは同じではない。
居心地のよいギルドには、感情労働をしている人がいる。
46. 世話役の社会学
まったりギルドや初心者歓迎ギルドに必要なのは、強い人だけではない。
世話役である。
説明する人。
誘う人。
フォローする人。
失敗しても笑える空気を作る人。
上級者の言葉を初心者に翻訳する人。
世話役は、ゲーム内の社会を維持する重要な存在である。
しかし、報酬には反映されにくい。
火力は数字に出る。
討伐速度も数字に出る。
でも、世話力は見えにくい。
だから軽視されやすい。
47. 信頼
固定PTや慣れたギルド活動は、信頼によって成り立つ。
説明しなくても動ける。
任せられる。
失敗しても立て直せる。
この人なら大丈夫と思える。
信頼がある集団は速い。
しかし、その信頼は経験を共有した内側でしか機能しない。
外から来た人には、その信頼がない。
だから、経験者だけの高速進行は、内部では快適でも外部者には怖い。
48. 評判経済
MMOでは、評判が資源になる。
あの人はうまい。
あの人はよく死ぬ。
あの人は説明がうまい。
あの人は面倒見がいい。
あの人は空気を悪くする。
あの人は進行できる。
こうした評判が、人の立場を決める。
ギルド内でも、サーバー内でも、固定PT内でも、評判は効く。
評判は見えない通貨である。
49. 排除のやわらかさ
MMOでよくある排除は、露骨ではない。
誰も追い出していない。
誰も悪口を言っていない。
参加禁止とも言っていない。
でも、入れない。
速すぎる。
聞けない。
失敗できない。
誘われない。
空気が硬い。
経験者だけで回っている。
これが、やわらかな排除である。
現代的な排除は、しばしばこの形を取る。
明確な拒絶ではなく、入れない構造として存在する。
50. 居場所の喪失
MMOのギルドは、居場所になりうる。
しかし、効率化、固定化、仕事化、閉鎖化が進むと、居場所性が失われる。
人はいる。
活動もある。
報酬もある。
組織としては機能している。
でも、自分がそこにいていいとは思えない。
これは、居場所の喪失である。
ゲームの中に人間関係があるからこそ、そこで居場所を失うことはかなり重い。
MMOはただのゲームではない。
小さな社会である。
だからこそ、そこには楽園もできるし、職場もできる。
秘密基地もできるし、兵舎もできる。
居酒屋もできるし、物流センターもできる。
大事なのは、自分がどの社会に身を置きたいかである。
9. 一文で言うと
高効率報酬コンテンツの反復によって、第三の場所だったギルドが、正統的周辺参加の入口を失った実践共同体へ変化する。
そして、文化資本と象徴資本を持つ中核メンバーだけで回る、官僚制的・寡頭制的・仕事化された週課処理組織になっていく。
長いけれど、社会学的に言えばこうなる。
もっと短く言えば、これである。
秘密基地が、いつの間にか物流センターになった。
MMOギルドは小さな社会である。
だからこそ、現実社会と同じように、居場所、階層、排除、支援、効率、仕事化が生まれる。
ゲームだから軽いのではない。
ゲームだからこそ、人間集団の型が短期間で見える。
そして、誰かが失敗したときの一言に、その社会の本性が出る。
そこ、難しいよね。あとで一緒にやろう。
そう言えるギルドは、居場所になる。
そろそろ覚えよう。
そう言うギルドは、職場になる。
遊びの世界に、もうひとつの職場を作る必要はない。
MMOで本当に大事なのは、最強ギルドに入ることではない。
自分がそこにいてもいいと思える社会を選ぶことである。
参考文献・関連研究
- Ahlström, Emil & Fors, Per. Play hard, work harder: Workification of gaming in a Swedish World of Warcraft Classic guild.
- Williams, Dmitri et al. From Tree House to Barracks: The Social Life of Guilds in World of Warcraft.
- Steinkuehler, Constance & Williams, Dmitri. Where Everybody Knows Your (Screen) Name: Online Games as “Third Places”.
- Lave, Jean & Wenger, Etienne. Situated Learning: Legitimate Peripheral Participation.