ナレーター:

アフリカの広大なサバンナ。ここに、進化の不思議を体現する、とってもユニークな動物がいます。今日の主人公は、若いキリンの「アル」。でもアル、なんだか自分の長い首と脚が、ちょっと邪魔そうですねぇ……。

アルが、仲間たちと同じように地面の美味しい草を食べようとすると、ほら、この通り。前脚を大きく広げて、よいしょ、よいしょ。これじゃあ、食べるのも一苦労だし、周りに敵が来てもすぐに気づけません。

仲間たちからも、「アルは背が高すぎて、足元の美味しい草を見逃しているぞ」なんて、からかわれる始末。アル自身も、「みんなみたいに、もっと小回りのきく体だったらよかったのになぁ」って、自分の体がちょっぴり嫌いでした。

ガラじっちゃん:

ホッホッホ。ナレーターさん、アルは悩みよりますが、実はこれ、「見えている世界」が違うだけなんですぞ。

ナレーター:

えっ、見えている世界?

ガラじっちゃん:

そうですぞ。ドイツの学者が言った「環世界(ウムヴェルト)」という考え方です。地面の草を食べるインパラと、数メートル上空から見下ろすキリン。体の作りが違えば、見えている景色も、感じる食料の場所も、全く違うんですぞ。アルが「変なところばかり見ている」と言われたのは、単に、アルだけが見える世界があったからなんですなぁ。

ナレーター:

しかし、サバンナに過酷な季節がやってきました。異常な大干ばつです。雨は降らず、地面の草は枯れ果て、砂ぼこりが舞います。いつもみんなが食べていた甘い草も、低い茂みの葉っぱも、あっという間になくなってしまいました。

「もう、どこを探しても食べるものがない……」

地面の高さで生活していた仲間たちは、深刻な飢えと渇きに襲われます。これまで「便利」だった彼らの体は、この環境では、生きるのがとても難しくなってしまったのです。

その時、アルが見上げた景色には、仲間たちとは全く違う光景が映っていました。はるか頭上。巨大なアカシアの木のてっぺんに、地下深くから水分を吸い上げ、太陽を浴びて、みずみずしい緑の葉っぱが残っていたのです!

「あそこなら、届く!」

アルは、みんなに「邪魔だ」と言われていたその長い首を、ぐうんと伸ばしました。サクサク、むしゃむしゃ。とても甘くて、水分たっぷりの美味しい葉っぱです。でも、アルは自分だけで食べることはしませんでした。

「ほら、みんな、食べて!」

空から降ってきた緑のごちそう。仲間たちは夢中で葉っぱを食べ、少しずつ元気を取り戻しました。

「アル、君のその高い目線と長い首は、こういう時のためにあったんだね」

仲間たちは、アルのその姿に、心からの感謝と尊敬の眼差しを送りました。

ガラじっちゃん:

ホッホッホ。これぞまさに「進化」の現場ですぞ。「高い葉を食べたいから首が伸びた」のではなく、アルのように「偶然、首が長く生まれた個性(多様性)」が、干ばつという激しい環境の変化(淘汰圧)によって、生き残るための「最強の武器」に変わったんですなぁ。環境に「合わせた」のではなく、環境に「合った」者が生き残る。これが自然の摂理ですぞ。

ナレーター:

みんなと違う体を持ち、違う景色を見ていたアル。その「ちがい」が、村のピンチを救う、みんなの宝物になりました。アルは今日も、自分だけが見える高い空の景色を、大切な仲間たちと共に守り続けています。