ノーブランド大学でも高卒よりまし?教育ローンで進学する前に考えること
「大学には行っておいた方がいい」
「高卒よりは大卒の方がまし」
「ノーブランド大学でも、大卒資格があれば何とかなる」
こうした言葉は、今でも進路選択の場面でかなり強く残っています。
もちろん、大学進学そのものを否定する必要はありません。旧帝大、早慶、上位国公立、MARCH、関関同立、地域有力大学、資格・専門職に接続する大学であれば、大学進学は就職や職業人生において有利に働くことがあります。
しかし問題は、すべての大学進学を同じ「大卒」として扱ってよいのか、という点にあります。
特に、偏差値30台から40前後の高校から進学できるような、就職市場で学校名がほとんど評価されにくい大学については、「大卒だから高卒より有利」と単純には言えません。むしろ、教育ローンや有利子奨学金を使って進学した場合、20代・30代に借金と低賃金が重なり、生活を苦しくする危険があります。
統計の「大卒」は、東大からノーブランド大学までを一つにまとめている
厚生労働省の賃金構造基本統計調査を見ると、学歴別賃金では高校卒より大学卒の方が高く出ています。令和6年調査では、男女計で高校卒288.9千円、大学卒385.8千円です。
この数字だけを見ると、「やはり大卒は高卒より有利だ」と言いたくなります。
しかし、この「大学卒」には、東大、京大、旧帝大、早慶、MARCH、関関同立、地方国公立、地域有力大学、資格系大学、そしてノーブランド大学がすべて含まれています。つまり、強い学校歴を持つ大卒も、就職市場で学校名があまり評価されにくい大卒も、一つの箱に入れられています。
だから、この平均値を根拠にして、「どんな大学でも高卒より有利」と言うのはかなり粗い判断です。
大卒が有利なのではありません。
有利な大学を出た大卒が、平均を押し上げている可能性があります。
ここを見落とすと、進路判断を間違えます。
「大卒」と「学校歴」は違う
「大卒」は形式資格です。
一方、「学校歴」は、その大学名が社会や企業にどう読まれるかです。
旧帝大や早慶の強さは、単なる入試偏差値だけではありません。そこには、卒業生の厚さ、企業内での配置、同窓ネットワーク、学閥、官庁・大企業・専門職との歴史的接続があります。
日本では、中国や韓国ほど学校歴が直接的な特権資格になるわけではありません。しかし、学校歴は就職市場や企業内の信用形成に間接的に効きます。
一方、ノーブランド大学には「大卒資格」はあっても、学校歴としての市場価値は弱いことがあります。
企業が採用するとき、「学歴フィルター」を明示するとは限りません。求人票に露骨に「この大学以下は不可」と書く企業は少ないでしょう。
しかし、採用担当者が大学名をまったく見ないということは、現実には考えにくいはずです。
応募者が多い企業であれば、大学名は、処理能力、学習習慣、選抜経験、過去の採用実績、社内での定着実績を推測する手がかりになります。
つまり、学歴フィルターが制度として明文化されていなくても、企業は大学名を見ています。そして、見られたときに強い大学名と、そうでない大学名があります。
ノーブランド大学の大卒資格は、採用上の優位ではなく「応募資格」に近い
ノーブランド大学を出ても、「大卒以上」の求人に応募できるようにはなります。これは一定の意味を持ちます。
しかし、応募できることと、採用で有利になることは違います。
大卒以上の求人に応募した瞬間、そこには上位大学、中堅大学、地方国公立、資格を持つ学生、就活準備を積んだ学生が並びます。
その中で、大学名が弱く、専門性も資格も目立たない場合、ノーブランド大学卒は大卒市場の下位に置かれやすくなります。
しかも今は人手不足の時代です。高卒求人も弱くありません。令和7年3月卒の高校新卒者について、ハローワーク経由の就職内定率は99.0%でした。
もちろん、求人の質は見なければなりません。けれども少なくとも、「高卒では働き口がないから、とにかく大学へ行くしかない」という時代ではありません。
むしろ、高卒で働き始め、4年間で職歴、資格、現場経験、社会人としての信用を積む方が、ノーブランド大学に借金して進むより合理的な場合があります。
学資ローンの金利は軽くない
ここが最も見落とされやすいところです。
大学進学は、気持ちの問題だけではありません。お金の問題です。
しかも教育ローンは、はっきり借金です。
日本政策金融公庫の「国の教育ローン」は、令和8年5月時点で固定金利年3.75%、上限350万円、条件によって450万円まで借りられます。
また、日本学生支援機構の第二種奨学金も有利子であり、基本月額に係る利率は、利率固定方式・利率見直し方式ともに年3.0%が上限です。
たとえば、300万円を年3.75%で借りて10年返済すると、毎月返済はおよそ3万円、総返済額は約360万円になります。15年返済にすると毎月返済は約2.2万円まで下がりますが、総返済額は約393万円になります。
つまり、300万円借りたつもりでも、返済期間が長くなれば90万円以上の利息が乗ることがあります。
この返済は、卒業後の生活に直接のしかかります。
家賃、車、スマホ、食費、交際費、転職、結婚、出産、親の介護。そういう現実の生活の上に、毎月の返済が乗ります。
もし卒業後の賃金が思ったほど上がらなければ、大学進学は「可能性への投資」ではなく、20代・30代の生活の自由を削る借金になります。
問題は、大学に行くことではない
ここは誤解してはいけません。
問題は、大学進学そのものではありません。
問題は、就職市場で十分な価値を持たない大卒資格のために、若者や家庭が借金を背負うことです。
資格につながる大学なら話は違います。
地域企業への就職実績がはっきりしている大学なら話は違います。
学費が抑えられ、返済負担が小さいなら話は違います。
本人の進路目的が明確で、職業に接続する学びがあるなら話は違います。
しかし、大学名が弱い。資格にも直結しない。就職実績も曖昧。卒業後の進路が学歴不問市場に流れやすい。それなのに、「高卒よりは大卒の方がまし」という感覚だけで教育ローンを組む。
これは危ない進学です。
高卒就職なら、18歳から実務に入れます。4年間働けば、職歴ができます。仕事の向き不向きも分かります。資格を取れる場合もあります。社内で信用を積めることもあります。
少なくとも、借金を背負わずに社会経験を始めることができます。
一方、ノーブランド大学に借金して進むと、4年後に大卒下位市場へ出ることになります。そこで大学名が評価されなければ、高卒で4年間働いた同世代より強いとは限りません。
SNSやネットの声は、統計が拾わない実情を教える
政府統計やシンクタンクの調査は、全体傾向を見るには役に立ちます。
しかし、統計はあらかじめ調査項目を決めています。そこでは「大学卒」という大きな箱が使われます。そのため、東大卒とノーブランド大学卒が同じ「大卒」に回収されます。
これでは、進路市場の実情は見えにくくなります。
SNSやネットの声は、代表性には注意が必要です。声の大きい人、極端な経験をした人、特定の業界の人が目立ちやすいからです。
しかし、統計が拾えない現場のズレは、SNSや口コミに早く出ることがあります。
たとえば、「大卒以上と書いてあっても、実際には大学名でかなり見ている」「学歴不問でも、前職や話し方で強く選別される」「ノーブランド大学を出ても、結局入る先は高卒でも応募できる職場だった」「奨学金返済が重く、20代後半になっても生活が苦しい」「高卒で働いた同級生の方が、早く職場で信用を積んでいる」といった声です。
統計は地図です。
SNSは足音です。
地図だけでは、いま道がどう使われているかは分かりません。足音だけでは、社会全体の構造は分かりません。
しかし、若者の進路判断では、地図だけでなく足音も聞く必要があります。
進学前に見るべきこと
大学へ行くかどうかを考えるとき、見るべきなのは「大卒になれるか」だけではありません。
その大学名は、就職市場で学校歴として読まれるのか。
その大学は、資格や専門職につながるのか。
その大学は、地域企業との具体的な接続を持つのか。
卒業生はどこに就職しているのか。
その就職先は、高卒でも入れる市場ではないのか。
教育ローンや奨学金の返済額はいくらか。
卒業後の初任給で、その返済は現実的か。
高卒で働いた場合に得られた4年分の職歴を捨てる価値があるのか。
ここまで見ない進学は、かなり危ういものになります。
結論
「ノーブランド大学でも高卒よりまし」という言葉は、進路指導として危険です。
それは、大学進学を過大評価し、学校歴の差を見ず、教育ローンの返済負担を軽く見ているからです。
大卒平均の有利さは、すべての大学に均等に配られているわけではありません。旧帝大、早慶、上位国公立、地域有力大学、資格系大学が持つ学校歴・専門性・就職接続と、ノーブランド大学の大卒資格は同じではありません。
偏差値30台から40前後の高校から進学できるようなノーブランド大学の場合、その大卒学位は、学校歴としては弱いものになりがちです。就職で有利になるとすれば、せいぜい「大卒以上」の求人に応募できる程度です。しかし、その門の中では、より強い大学名を持つ学生と競争することになります。
そのうえ、教育ローンや有利子奨学金を背負えば、卒業後の生活には返済が乗ります。就職が思うようにいかず、賃金も上がらなければ、20代・30代を借金と低賃金の中で過ごすことになります。
だから、大学進学は夢だけで決めてはいけません。
まして、「高卒よりは大卒の方がまし」という曖昧な言葉で、若者に借金を背負わせてはいけません。
大学へ行くな、という話ではありません。
借金してまで行く大学なのかを見ろ、という話です。
そして、場合によっては、高卒で働き、実務を積み重ねる方が、若者の20代を守る進路になることがあります。
ここを、きれいごとで隠してはいけません。
次回に続きます
この記事は、大学進学そのものを否定するものではありません。
また、高卒就職だけが正しいと言いたいわけでもありません。
問題にしたかったのは、目的も見通しもないまま、「高卒よりは大卒の方がまし」という言葉だけで、教育ローンや有利子奨学金を背負って進学する危うさです。
一方で、大学で学びたいことがはっきりしている人、将来就きたい仕事がある人、資格や専門分野につながる勉強をしたい人にとっては、大学進学には大きな意味があります。
次回は、「偏差値が低いから大学を諦める、ではない」というテーマで、目的ある進学の意味について考えます。
第一弾は、目的なき借金進学への警句です。
第二弾は、目的ある進学まで潰してはいけない、という話です。
ぜひ続けて読んでください。
偏差値が低いから大学を諦める、ではない|目的ある進学の考え方